9月19日に行われた、建築環境デザインスタジオIIの最終発表会のレポートです。
岡部明子先生率いる建築スタジオは、夏学期後半の建築スタジオIに続いて、夏季休暇に集中実施される建築スタジオIIの2つがあります。
毎年インドネシア大学との共同でジャカルタ中心部のインフォーマル地区に赴き、現地でワークショップを開催されていますが、今回は全面オンラインで実施されました。
9月12日〜19日にかけて、学生はインドネシア・日本の国籍混合A〜Hの8チームに分かれての作業。
指導陣は、岡部明子先生、インドネシア大学のEllisa Evawani先生を中心に、特別講師として慶應義塾大学の石川初先生、継続して建築家の雨宮知彦先生、インドネシア大学のJoko Adianto先生、九州大学から岩元真明先生を迎えて行われました。
今年度テーマは「チキニのニューノーマル」です。
感染拡大リスクを極小化し、今まで通りの生活を目指す生活様式で、高密度で人間的な住環境は成立しないのか?
この問いに応えるべく、2段階のプロセスで進められました。
第1段階は「ニューノーマルな高密度カンポン*」の地区コンセプトの提案。
続く第2段階では、第1段階の地区コンセプトに基づき、RWと呼ばれる自治会の集会所・オフィスの建築設計です。
第2段階での建築設計では、他チームが示したコンセプトを取り入れながら提案されていました。
今回の最終発表は、第2段階の成果物です。
*カンポン:インドネシア語で「村」を意味する。
実施中は参加できなかったのですが、連日日本時間10時〜20時まで行われ、中間講評では深夜まで(!)かかっての熱い発表・作業が繰り広げられたようです。
最終講評も、16時半〜20時前まで続き、さらにその後21時半からは現地の住民の方々への発表会という2部構成でした。
Aチーム:Ruang Himpun – space to gather
パンデミック中の患者の症状に応じて隔離スペースを区切った、2階建ての建築。
1階はコミュニティ・キッチン、健康チェックなどの機能があるオープンな空間、
2階部分は隔離スペースに加えて、半屋外のバルコニーには都市農業のプログラムを入れています。
Bチーム:Kantor RW(RW事務所)
半層ずつ連なる4つの空間から成る設計案。
1階が子供の遊び場もある開かれた公共空間、2層目は待合室、3層目にRW事務所、さらに上がると屋上に出ます。
構造分析に裏打ちされた、とても軽やかな建築です。
Cチーム:Site Cikini District
2階建てのRWオフィス。
小路からセットバックさせ、1階部分の半屋外空間ピロティと繋いで公共空間を創出する提案です。
垂直方向に緑化壁を配置して、強い日射を遮ることも提案されました。
Dチーム:RW Office Project
1階は事務所・集会所、2階に倉庫・図書室、3階にパンデミック中の隔離スペースを配した設計提案。
建具・家具の配置で、用途に応じたフレキシブルな空間利用を実現しています。
Eチーム:Restaurant for the Wheels
3階建ての建物の中で、1階は食堂、2階はRW事務所、3階にキッチンを配した提案。
1階の食堂は天井から吊られたテーブルに、バイクで入ってきた人がバイクシートに座ったままテーブルにつき、
食事も3階から上げ下げされるという斬新なアイディア。
食事をする人、調理・配膳する人の間の距離を水平・垂直方向で確保しています。
Fチーム:RW Office Design
ニューノーマルの床や座面のペイントを使った行動の誘導を目にする機会が増える中、
カラリーングを使ったマスタープランを検討したEのアイディアから、
色塗りをして行動誘導を図ることを考えたRWオフィス棟の提案。
半地下のレクチャールームや壁画アートでは住民参加の機会も想定されています。
Gチーム:Balai RW Kampung Cikini (チキニ・カンポンRW事務所)
地区内の市場と、RW事務所を接続する提案。
レベル差を活かして市場のある小路と、3階建てのRW事務所1階・正面道路を繋げ、通風も確保します。
3階にはパンデミック中の患者隔離スペースも確保。その後は貸しスペースとして転用を想定。
Hチーム:Cikini New Normal
1階は駐車場、2階は食事と販売、3階にオープンエアーの会議スペースを設置した3階建て建築。
椅子、ベンチ、テーブル、販売台、収納と様々な用途に活用できる箱型モジュールを設計し、それらを展開した空間を提案しました。
講評では、ニューノーマルの状況下で互いに疎であることが求められる中、個人のパーソナルスペースの確保と、
高密な暮らし方をいかに両立するのかを考える上で、実験的な機会になることを改めて確認した上で、
通風の確保と人々の交流が両立できることが、8つの提案の中で示せたことが評価されました。
また、ファニチャーを使ってフレキシブルな空間を作り出した提案も多く、ウィズ・コロナ時代の中で、
建築はより一時的な形になるのか、それともパーマネントなものが求められるのか?という問いかけもなされました。
講評の最後に先生方の投票でEチームとGチームの2案が選ばれ、さらに1時間半のブラシュアップを経て、住民の皆さんへの発表に進みました。
21時半からはRWの皆さんが集まっている場所と繋いで、インドネシア語で発表が行われました。
第1段階の地区提案は、Hチーム “Public Personal Space”、Aチーム”Mosq-Ku”、Eチーム”More than Guidance, More than Color”が選定され、
第2段階のG、Eチームの建築提案と合わせて地元の方へお披露目されました。
送っていただいた写真からは、すごく盛り上がった様子が伝わってきます・・!
最後の住民発表会には残念ながら参加できなかったのですが、
現地に行って対面で議論できない中で、この短期間でここまで練られ、まとめ上げられたことに圧倒されました。
ファニチャーの使い方や、互いの距離を保ったままでも交流を可能にする方法は、
もともと高密で人間味のある暮らしがあるカンポンを前提としたからこそ、考えられたものだと思います。
先生方の講評にもあったように、人が密に暮らさざるをえない中で生まれる創意工夫は、
カンポンでのこれからの実験・知見から多く学ぶものがあると期待が膨らみました。
画面の向こうからも熱気が伝わる、とても熱い会でした!
皆様、本当にお疲れ様でした!!
(柏原)